知らないと危険!? 米国における物流業務改善を取り巻く環境 (1)米国での物流業務改善を取り巻く規制緩和
(1)米国での物流業務改善を取り巻く規制緩和
米国物流業界の現状について解説します。米国と日本の物流業界における規制は、当然ながら大きく異なり、特に1980年以降、運送業、商取引などの規制緩和による変化も活発となっています。
物流関連の規制緩和と変化について
1980年代以降、米国では物流業界における規制緩和の動きがいくつかありました。規制緩和により、更に効率的な物流ネットワークが構築され、経済成長や関連する雇用の創出に寄与してきたと言えます。これに伴い、適切な安全対策や競争ルールが定められてきました。

(1)運送業における規制緩和
1980年代以降、ドライバーの労働時間に関する制約、トラックや鉄道の運賃に関する制約などが緩和されています。これらにより、運賃が抑えられ、サービスは向上することになり、荷主と顧客は大きなメリットを享受できます。また物流業者は、より柔軟に運送業務を行うことができ、効率的な物流ネットワークを構築できると期待できます。
その一方、規制緩和以前より高い賃金で労働してきたドライバーは、規制緩和による激しい市場競争のため、賃金が大幅に低下し、福利厚生なども手薄になりました。低賃金と厳しい労働条件のため、ドライバーの新規雇用も難しくなっています。
そこで、1日の運転時間は原則で最大11時間までとし、8時間運転するたびに30分間の休息を入れるといったドライバー向けの労働基準などが設けられました。物流業者とドライバーは、定められた労働基準を守る責任があり、違反した場合は会社と個人が罰せられます。なお、運転時間と休憩時間のルールには、発着地点や天候、安全面などの観点による特例もあるため注意が必要です。
(2)電子商取引における規制緩和
米国政府は現在、インターネットやモバイル技術の普及に伴い、急速に成長している電子商取引(eコマース)を普及促進するため、電子決済やクロスボーダー取引に関する規制緩和策を展開しています。これにより、企業や個人がより簡単に商品やサービスを販売することができ、物流業者は効率的な配送ネットワークを構築できます。
日本企業が米国に子会社を設立することなく、現地でeコマースを展開することも可能です。しかし提携先との契約に「保険加入義務の条項があるケース」「提携先を付保範囲に追加すること必要があるケース」など、米国の保険への加入が求められることがあり、万が一リスクが発生した場合、日本の親会社に影響を及ぼさないため、米国に現地法人を設立する必要がでてきます。
米国に子会社を設立する場合、遵守すべき米国の規制やルールが増えることになります。例えば、JCB、American Express、Discover、マスターカード、VISAの5社がクレジットカード情報や取引情報を保護するために共同で策定したクレジット業界におけるセキュリティ基準であるPCI DSSはその一例です。
また、米国でeコマースを監視する機関である連邦取引委員会(Fair Trade Commission:FTC)が、2016年4月に承認した経済協力開発機構(OECD)のガイドラインに対応することも必要となり、違反した場合は、FTCにより不公正とみなされる可能性があるので注意が必要です。特にFTCが重視するのは、開示義務、公正なマーケティング、データ保護の義務の3つです。
(3)先端技術に対する規制緩和
近年のドローン技術の進歩に伴い、米国ではドローンを利用した物流に注目が集まっており、遠隔地や緊急時の物資輸送などで効果が期待されています。米国政府は、商業用ドローンの運航規制を緩和すると発表し、物流業者がドローンを活用して商品の配送や在庫管理を効率化することを支援しています。
具体的には、連邦航空局(FAA)が2021年1月15日に、民間によるドローン活用に関する2つの連邦規則を制定することで規制を緩和しました。規制緩和の1つは「遠隔IDの装備の義務化」であり、もう1つは「人の上空の飛行に関する規制」です。ドローンに遠隔IDを搭載することを義務付け、FAAの承認なしに人の上や夜間の飛行を一定範囲で承認することにより、ドローンによる災害救助などの可能性を広げる目的です。
規制緩和の対象とされるドローンと飛行条件は、以下のようなものです。
・総重量:55ポンド(約24.9キロ)以下
・飛行高度:400 フィート(約121.92メートル)以下
・飛行速度:時速100マイル(時速約160キロ)以下
など。
民間企業のドローン活用に関しては、今後も規制緩和や法改正が実施されることが予想されるので、FAAのサイトや各州のガイドライン、各種ルールなど、常に最新の情報を収集しておくことが必要になります。

